恒等式の問題の解法 係数比較法と数値代入法

数と式


恒等式の問題の解法は, 大きく分けて「係数比較法」と「数値代入法」の2通りあります。
このページの前半では, 恒等式の基本知識について述べます。
後半では, 2つの例題をそれぞれ係数比較法, 数値代入法を使って解きます。

恒等式とは

等式 \(f(x)=g(x)\) が, 両辺の値が存在する限りすべての \(x\) について成り立つとき, この等式を \(x\) についての恒等式といいます。

「値が存在する限り」の意味

例えば, 次の分数式

\(\dfrac{h(x)}{x(x+1)(x+2)}=0\) (\(h(x)\) は整式)

が与えられたとき, 左辺の分母が \(0\) になるような \(x\) の値, すなわち \(x=0,-1,-2\) は除いて考える, という意味です。
この式が \(x\) についての恒等式であるということは, この式が \(x=0,-1,-2\) を除くすべての \(x\) について成り立つということです。

係数比較法と数値代入法

\(f(x),\,g(x)\) が高々 \(n\) 次の整式のとき, 次の条件 \([1],[2],[3]\) は同値です。

\([1]\quad f(x)=g(x)\) は \(x\) についての恒等式である。

\([2]\quad f(x)\) と \(g(x)\) は次数が等しく, 同じ次数の係数はすべて等しい。

\([3]\quad f(x)=g(x)\) が異なる \(n+1\) 個の \(x\) で成り立つ。

例:2次式の恒等式

\(f(x)=ax^2+bx+c\)
\(g(x)=a^{'} x^2+b^{'} x+c^{'}\)
のとき, 次の条件 \([1]^{'},\,[2]^{'},\,[3]^{'}\) は同値です。

\([1]^{'}\quad ax^2+bx+c=a^{'} x^2+b^{'} x+c^{'}\quad\cdots(*)\) は \(x\) についての恒等式である。

\([2]^{'}\quad a=a^{'},\,b=b^{'},\,c=c^{'}\) が成り立つ。

\([3]^{'}\quad (*)\) が異なる \(3\) 個の \(x\) で成り立つ。

恒等式の問題を解くとき,
係数比較法では\([2]\) を利用します。

数値代入法では\([3]\) を利用します。
何を代入するかは問題に応じて決めます。

例題1:整式の恒等式

問題

\(3x^2-6x-1=ax(x-1)+bx(x+1)+c(x-1)(x+1)\)
が \(x\) についての恒等式となるような定数 \(a,\,b,\,c\) の値を求めよ。

解答

解法1:係数比較法
右辺を整理すると,
\(\phantom{=}ax(x-1)+bx(x+1)+c(x-1)(x+1)\\
=ax^2-ax+bx^2+bx+cx^2-c\\
=(a+b+c)x^2+(-a+b)x-c\)
これと左辺の係数を比較すると,
\(\begin{cases}
\phantom{=}3=a+b+c \\
-6=-a+b \\
-1=-c\end{cases}\)
これを解いて,
\(\color{red}{a=4,\,b=-2,\,c=1}\)

解法2:数値代入法
与式の両辺に \(x=0,\,1,\,-1\) を代入すると,
\(\begin{cases}
-1=-c \\
-4=2b \\
\phantom{=}8=2a\end{cases}\)
これを解いて,
\(\color{red}{a=4,\,b=-2,\,c=1}\)

例題2:分数式の恒等式

問題

\(\dfrac{5x^2+15x+6}{x(x+1)(x+2)}=\dfrac{a}{x}+\dfrac{b}{x+1}+\dfrac{c}{x+2}\quad \cdots\unicode{x2460}\)
が \(x\) についての恒等式となるような定数 \(a,\,b,\,c\) の値を求めよ。

解答

解法1:係数比較法
与式の両辺に \(x(x+1)(x+2)\) をかけると,
\(5x^2+15x+6=a(x+1)(x+2)+bx(x+2)+cx(x+1)\quad\cdots\unicode{x2461}\)
\(\unicode{x2461}\)の右辺を整理すると,
\(\phantom{=}a(x+1)(x+2)+bx(x+2)+cx(x+1)\\
=a(x^2+3x+2)+bx^2+2bx+cx^2+cx\\
=(a+b+c)x^2+(3a+2b+c)x+2a\)
これと\(\unicode{x2461}\)の左辺の係数を比較すると,
\(\begin{cases}
5=a+b+c \\
15=3a+2b+c\\
6=2a\end{cases}\)
これを解いて,
\(\color{red}{a=3,\,b=4,\,c=-2}\)

解法2:数値代入法
与式の両辺に \(x(x+1)(x+2)\) をかけると,
\(5x^2+15x+6=a(x+1)(x+2)+bx(x+2)+cx(x+1)\quad\cdots\unicode{x2461}\)
\(\unicode{x2461}\) に \(x=0,\,-1,\,-2\) を代入すると,
\(\begin{cases}
\phantom{=}6=2a \\
-4=-b\\
-4=2c\end{cases}\)
これを解いて,
\(\color{red}{a=3,\,b=4,\,c=-2}\)

補足:分数式の数値代入法について
分数式 \(\unicode{x2460}\) には \(x=0,-1,-2\) を代入することができません(分母が \(0\) になってしまうため)。
しかし, 分母を払った式 \(\unicode{x2461}\) には \(x=0,-1,-2\) を代入して考えてもよいです。
以下, その理由について大雑把に説明します。
\(\unicode{x2460}\) が恒等式であるとき, \(\unicode{x2460}\) は \(x=0,-1,-2\) を除くすべての \(x\) で成り立つので, 分母を払った式 \(\unicode{x2461}\) も \(x=0,-1,-2\) を除くすべての \(x\) で成り立ちます。
\(\unicode{x2461}\) が \(x=0,-1,-2\) を除くすべての \(x\) で成り立つことから, \(\unicode{x2461}\) は明らかに異なる \(3\) 個の \(x\) で成り立つので, 条件 \([3]\) より\(\unicode{x2461}\) は恒等式です。
\(\unicode{x2461}\) は整式の恒等式なので, とくに \(x=0,-1,-2\) に対しても成り立ちます。